※今回は「もじあるき」を一緒に制作しているアヅマさんが書いてくれました。 ことの始まりは、ごろうくんの「射的をやってみたくなった」という一言でした。 確かに我々の前方には、ケバケバしく装飾された文字で『射的・スマートボール』と書かれたお店が構えており、否応にも好奇心を煽るような幻惑的な配色には、僕もよっつくんも気になるところではありました。 しかし、いざ実際に「射的をやりたいか?」と問われれば、不思議とそんなに積極的になるわけでもなく、「別に…」と返答するのが概ね大半の意見ではないかと思います。そんなわけで僕らは、普遍的な普通顔(「別に顔」)で「…」と無言の返答をしたのですが、ごろうくんのテンションはまったく冷めず、それどころか1~2割増しで「やろう!!」とアゲアゲになっていたほどでした。 お店に入ると、70歳くらいのときの森光子に激似の女将が、「いらっしゃい」と優しく声をかけ、僕らを歓迎してくれました。女将から説明を受けるや、いてもたってもいられないという面持ちで、ピストルを構えるごろうくん。 鋭い眼光は、メガネの奥からもはっきりと確認でき、僕もよっつくんも固唾を飲まずにはいられませんでした。 「ごろさん、何狙うの?」 と、よっつくんが尋ねると、「う~ん、何がいいかなぁ~…」と、猛禽類のような眼差しのわりに、銃を構えている本人は、案外何も考えていなかったことが発覚し、僕はズッコケてしまいました。 すると、森女将が、「6発(200円分)打てるから、1点分に加算されるピンクの札をまずは5回落としたらいいよ。そうすれば、5点分の景品と交換できて、必ず何かしら獲得できるから」とアドバイスをくれ、ごろうくんは迷うことなく、ピンクの札を狙い撃ちました。 従順なる狙撃手!! まるで殺し屋のような手際の良さでした。 『パンッ!』と乾いた音の後、ピンクの札は“パタン”と見事に棚から崩れ落ちると、その乾いた音の心地よさがごろうくんにコツをもたらしたのか、その後も連続で札を打ち落とし、ノルマであるところの5点を獲得するにいたりました。 満足気な表情で5点分を獲得したごろうくんは、数ある景品の中からパーティーグッズの『鼻メガネ』をチョイスし、「今日の賞金首は、こいつだァ~(鼻メガネ)」とでも形容したくなるようなオーラをまとっているように見えました。 それにしても、娯楽空間である色彩華やかな遊技場で耳にする『パンッ』という乾いた音の心地よさは素晴らしいものです。 例えば、かつて染之助・染太郎がTV画面に登場するだけで、その場がガラリと変容したように、遊技場の射的の音というのも、一種の非日常的な倒錯の世界へ誘ってくれる類のものであると思います。 「偶然によりもたらされる幸運や金品に高揚する心」や「期待値が上下する賭け事に参加する人々の心情」のことを『射幸心』と呼んだり、 「神事としての的矢において金的や銀的から矢を抜く儀礼」(厄や鬼が祓われたことを意味する)のことを、『祝的』と呼ぶように、心地よい音を伴って的を射抜くブレイクスルー感は、古来より気分を高揚させる形容として馴染みが深く、日常ならざる陶酔性を帯びているわけです。 そんなわけですから、ごろうくんの祝的を目撃した我々は、マジックシェルによってぶちまけられた臓腑を拾うミセス・ケネディの如く、必死の形相で財布から小銭を取り出し、「me too」と叫んでおりました。 よっつくんは、「あなたもまずは5点分を稼いだほうがいいわよ」とアドバイスをくれる女将に反旗を翻し、「いや、でかいの狙います」と照射を、明らかに初心者には難易度の高そうな的(ジッポライター)へと向けておりました。 ピストル片手に反逆する姿は、さながら革命家のようでした。 少し呆れ顔の女将の顔は、もう本当に放浪記を演じているときの森光子にしか見えず、僕は、「今年に入ってから、急速に森光子(フォレスト・ライト・チルドレン)が文字通りチルドレン化してきているよなぁ」などと本気で女将の顔越しに、森光子を心配してしまったほどでした。「パンッ」と僕の煩悩を消し去るかのように音がこだますると、コルクは見事にライターに命中しました。 ……が、はしゃぐ我々をよそに、女将はしたり顔で、一つの事実を叩きつけたのです。 射撃というのは的が倒れたとしても、棚から落ちなければ獲得にはならない、というのです。 明治時代、真っ当な外交条約を遂げるため、アメリカに渡るも無理難題、おまけに書面における無茶苦茶なルールを叩きつけられ途方にくれた岩倉具視たちの気持ちが理解できたような、理解できないような。 もうそこからは意地です。 絶対にあのライターを落とすという悲願を達成するべく、よっつくんも僕もごろうくんも、朝倉南が色紙に『甲子園に連れていって。あと、ジッポライターも獲得して』と書いたと想定して、全力投球に勤しむほかありませんでした。 しかし、皮肉なことにジッポは倒れているわけですから、屹立しているときに比べ、コルク弾の当たる面積部分は、圧倒的に小さく、難易度は激増してしまっていたのです。 おまけに、棚に面している部分は横に倒れただけ大きくなり、重みのあるジッポを(あと少しの距離といえど)、棚から押し出し落下させるには、コルクが一発当たったところでは何の変化ももたらさず、当てては徐々に後ろに押し出し、最終的にはあと3~4発はあてなければ獲得できないということが分かったのです。 本来、射的のスタンダードな構え方は、的にギリギリまで銃口を近づけるタイプのものですが(女将曰く、それが一番当たる確率が大きいとのこと)、あまりにジッポが傲慢不遜な態度で棚に横たわっているため、我々三人は、「普通のやり方では無理ではないのか?」などと、思い思いにどうやればあの目的物を玉座から引きずり落とせるかばかりを考えていました。 そのような背景があるにせよ、よっつくんは何を思ったのか、途中からスナイパー方式の撃ち方に変更してしまい(遠距離から狙っているわけです)、「このほうが当たると思うんです」と、確証ゼロのアドバルーンを高々と打ち上げてしまいました。 『それは無理だって、よっつくん!! メディーーークッッ!!!!』 と、僕は彼を制止しようと試みましたが、「行ける気がするんです」と完全に泳ぎながらイッている目を見たとき、僕はすべてのことを諦め、言語能力を失いました。女将ですら、「ふふふっ、かっこつけたいだけよ(笑)」と嘲笑していたほどです。 そして、よっつくんは引き金を引いたのです。 『パンッッ』 (中略。果てしなく長いゼロコンマ何秒) 弾はかすりもしませんでした。 「すみません」 これほどまでに空しく、そして清々しく口から放たれた言葉を、僕は忘れることがないでしょう。 気がつくと結構なお金を使っていたと思います。 何発か当たり、女将も僕たちの情念を感じ取ったのか、はたまた優しさからなのか、手で少しずつジッポを後ろに下げてくれたりもしました。 日も完全に落ちる頃、「これでもう落ちると思うわよ」と大サービスで、落下寸前の位置までずらし、なおかつ、横になっていたジッポを再び立ててくれたほどです。 ありがたいやら、申し訳ないやら、情けないやら、様々な感情が入り混じりましたが、あと一発当たれば、間違いなくジッポは落ちるのです。それにもう、陽は落ちているのです。 最後はこの射的に興味を持ち、偶然ながらも開拓してくれたごろうくんに華をもってもらいたい。 その一心から、よっつくんも僕も花道を作ることにしました。この日最大の射幸心の到来です。 「いいんですか?」 「もちろん」 僕が頷くと、 「ごろさん、決めてください」 と、よっつくんも正視。 そして、 ごろうくんが引き金を引くと、 弾はかすりもせずに後ろの壁に当たりました。 なるほど、昔の人はセンスがあります。 これはもう“的外れ”そのものだったのですから。 レインボーブリッジから晴海あたりを見渡すと、海面からそびえて立つかのように林立している高層ビル群が、たまに射的場のように見えたりしました。あのビルを打ち落としたいなぁ~などと、東京湾を通過するたびに思っていたものでしたが、久しぶりに本当に射的をしてみると、当たり前ですが、全然違うものなのだと痛感してしまいました。 こっちは楽しいものなのです。 できれば今度は、ビール片手に。しきりに、そう思うのです。
読み物として面白いです~ まさに読むもじあるき。
2009年7月15日8:19 PM|foxhima|
>>foxhimaさん ありがとうございますー! アヅマさんも喜ぶと思います。けっこう仕事の合間を見つけて色んなこと行ったり見たりしているんですが、なかなかまとめて書くことができなくて…。他人に書いてもらうっていうのは、なかなか妙案かもしれないです。
2009年7月16日12:27 AM|ごろり|
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読み物として面白いです~
まさに読むもじあるき。
2009年7月15日8:19 PM|foxhima|
>>foxhimaさん
ありがとうございますー!
アヅマさんも喜ぶと思います。けっこう仕事の合間を見つけて色んなこと行ったり見たりしているんですが、なかなかまとめて書くことができなくて…。他人に書いてもらうっていうのは、なかなか妙案かもしれないです。
2009年7月16日12:27 AM|ごろり|