2008年8月30日

生物から見た世界

ごろりです。

生物から見た世界 (岩波文庫)
著者/訳者:ユクスキュル クリサート
出版社:岩波書店( 2005-06 )
定価:¥ 693
文庫
ISBN-10 : 4003394313
ISBN-13 : 9784003394311



先日読んだ「生物から見た世界」という本は面白かった。これは、動物比較生理学者のユクスキュルという人が、今からおよそ70年ほど前に書いた本である。この本は、生物の「環世界」ということについて書かれている。環世界というのは、その生物が知覚的に感じている世界、という意味である。要するに、同じ環境を生きていても、人間が知覚する世界と、イヌが知覚する世界と、ハエが知覚する世界では、まったく違うということだ。

たとえば、ダニは目も見えないし、耳も聞こえない。味覚も無い。あるのは、光りがあるかないかを感じる光覚と、ほ乳類の皮膚線から出るという「酪酸」のニオイを感じる嗅覚、そしてほ乳類の体温を感じ取る触覚だけである。ダニは、光りをたよりに木の上によじ登り、酪酸のニオイを感じたら身を投げ出し、うまく動物の上に落ちたかどうかを触覚で確認して、血を吸う。その後は、産卵して死ぬのみである。つまり、ダニにとっては、光りがあるかないか、酪酸のニオイがあるのか無いのか、そして体感する温度が動物の温度なのかそうでないのか、この3つの要素だけで世界が成り立っている。季節が秋になって葉っぱが赤くなろうが、近くでカラスがけたたましく鳴こうが、ダニにとっては一切認識されない、何の関係もない話なのである。ダニにとっては世界はそのように認識されている。

それぞれの生物は、自分が生きるために必要な知覚機能だけを持ち、それがその生物にとっての環世界を形作る。このことは、人間が見ている世界も、それは人間の知覚機能が感じ取っているだけの限定的な世界であって、決してすべての環境世界を見ているわけではない、ということを気づかせてくれる。

この本を通して、がんばってほかの生物の環世界を疑似体験してみるのだけれど、でもそれで理解できたことも含めて、けっきょくは人間が感知できる世界での話なんだなあと思ってしまう。人間の環世界の外にはいったい何があるのか。それは僕が人間である以上、知ることは絶対にないのだろうけれど、想像を膨らませると何だかワクワクしてくる。

しかし生物間の環世界には、はっきり区別できる差が見られるが、もっと狭い範囲に目を向けても、実は人間同士でも、細かいところで、微妙にずれのある環世界のなかを生きているんだろうなと考えると、ますます興味深い。実際、最終的には他人の頭を覗き込んでみることなど不可能なのだから、目の前の他人が、僕と同じ環世界で生きている保証などどこにもない。知覚の数だけ、環世界がある。人間のあらゆるコミュニケーション活動っていうのは、芸術も含めて、けっきょく無数の環世界を、できるだけひとつの共同幻想のようなものに落とし込もうとする作業なのかもしれないな。そしてそれも、人間が生きていくために与えられた機能のひとつということなんだろう。

視野の広がる、ロマンのある本だった。

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  1. この話にちょい思い出しました、最近、気付いたことを。
    (どうでもいい話なんですけど)

    タジリと私は共に聴力検査◎なのですが、聴き取りがかなり違うんです。
    私は微小音まで聴き取れるけど聴こえがが雑、
    タジリはたぶん、私ほど小音は聴き取れないけども分析できるほど聴こえが繊細鮮明、らしいのです。


    2008年8月30日4:57 PM|オータ

  2. >>オータさん

    それは面白いですねー。だいたい、同じ風景を見ていても、気づく点はそれぞれ違う。音についてもそうだとしたら、そういうものの積み重ねによって人格とか人生経験が形成されているわけで、やっぱり感じられる世界が変わってきますよねー。だから人と接するのって面白いのかな。


    2008年8月31日10:12 AM|ごろり

  3. 五感のどれに重きを置いてるかって、確実に生物、勿論人間でも、その個性を形作る要因としてでかいと思います。
    例えば犬と猫の目の前に餌を差し出して、あさっての方向に投げてみると、犬は追いかけて取りに行き、猫は次の餌が差し出されるのを待つらしい。
    これは犬が主に嗅覚に頼っているのと、猫が視覚に頼るのとの違いだそうです。


    2008年9月1日8:37 PM|よっつ

  4. >>よっつ

    なるほどね。人間でも嗅覚が鋭いか視覚が鋭いかの重点が違えば同じことになるかもしれないな。
    一方で自分自身がどの五感に重点を置いているかってのは、自分では分かりにくいものだなあ。まあどれかひとつに特化しているってわけじゃないんだから当然っちゃ当然なんだが。


    2008年9月3日9:52 AM|ごろり

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