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2005年08月30日

第3回 夜行バスに乗って。

8月18日、出発当日。夜22時半の深夜バスに乗る予定である。

本来ならば、昼ごろからゆったりと旅支度をしてみたいところだ。リュックサックに薬を入れようとしたら、ポケットから一年前くらいの薬が見つかったり。トランクスは3着かな?4着かな?などと悩んでみたり。

しかし僕はあせっていて、それどころではなかった。。今日までに、仕事で作る映像の脚本と絵コンテを、須田さんに渡さなければならなかったのに、まったく完成していなかったのである。

僕の制作というのは必要以上に長くかかってしまう。いつもそうだ。

作りたいんだけど、けだるくて、頭が働かないんだ。制作のことになると、ちょっとしたことを異常なストレスに思ってしまうことがあるんだ。そして、「これ、たいしたこと無い脚本だな」って、誰より先に自分で気づいてしまうんだ。

そんな葛藤を繰り返しつつ、しかし物事を進行させるには今日、提出せねばならない。須田さんが締切りを設けたのではなくて、僕が内的に設けた締め切りだったのだ。さすがに23年間生きてきて、自分が怠惰だということだけは把握している。自分で自分を追い込まないと、作れないらしい。

朝11時ごろ、なんとか見せられそうなものが完成、急いで経堂へ向かうが、そこでもてんやわんやあって、「1時にはここを出よう」「いや、3時には…」などと思っていたら、なんと経堂を出たのが午後6時すぎ。家に帰って7時。家に帰り、夕食をとりお風呂に入り、荷物の準備時間はなんと30分弱。大慌てで荷物を放り込む。とにかくカメラ、財布、RSRのパス、これさえあれば大丈夫だ。

しかし雑に詰め込みすぎて、リュックに荷物がぱんぱんである。しかしここで、寝袋が入っていないことに気づいてしまう。が、もはやそれを入れるスペースが無い。どうしようか迷うが、もう家を出ないと間に合わない。寝袋を捨てて家を出てしまう。このことが、のちのち大変な後悔を引き起こしてしまうことは、このときは知る由もなかった…(ほんとはちょっと予測できてたけど)。

 

さて、集合場所は新宿の八十二銀行の前。僕が着くと、すでにたくさんの旅行者らしき人たちが時間をつぶしていた。しかし八十二銀行はなんと読むのだろう。面倒くさいからいちいち調べなかったが、まわりの大学生らしき集団は、携帯電話で「今、"はちじゅうに"銀行の前だよ!早く!」と叫んでいる。良い年した中年のおじさんでさえも「いま、"はちじゅうに"銀行だ」と言う。"はちじゅうに"でいいのか?直感的に違う気がするのは自分だけなのか?真相は明かされないまま、バスが到着する。

補足)
長野で働いている、僕の友達のイケッチ君から以下のようなメールをいただきました。
「八十二銀行の読み方はそのまま"はちじゅうに"銀行です。長野県で最もメジャーな銀行です。私も口座持ってます。ちなみにマスコットキャラクターはかん太くんです。」
イケッチ、貴重な情報ありがとう。でもなんで"はちじゅういち"じゃなくて"はちじゅうに"なんだろうね。

…と書いたところ、今度は高校のお友達eriyちゃんからこんなメールをいただきました。

あれは国立銀行設立時の設立ナンバーらしいですよ。 つまり全国153ヶ所のうち、82番目に設立したということのようです。 って以前に経済学部の友人に聞いたことがあります。

ああ、なんかすごいすっきりした。ありがとうございます。

実は僕は夜行バスは始めてである。バスが苦手なのだ。バス酔いする。いまとなっては、船よりもずっとバスのほうが酔う。だいたい狭いのがいけない。空気も「バスのにおい」が漂っている。あれはもっとスイカとかメロンのにおいにならないのか。だから酔い止め薬を飲んでおいて、とにかくバスに乗ったら寝よう、と思っていた。

しかしバスは満員、隣は男である。なんで男と肌を合わせて寝ないといけないのか。ほかの席には女子大生らしき人がいっぱいいるのに。そして僕の前の席の外国人2人組と、通路をはさんだ席の、英語の話せる日本人のおばさんが、車中で意気投合しやがった。快眠グッズを共有したり、お菓子を与えあって、変なおもちゃでゲラゲラ笑い転げている。バスでそんなに喋るな!

僕は目をつぶって音楽でも聞くことにした。しかしまったく眠れない。満員なので、座席もどこまで倒してよいのか分からない。

 

深夜2時すぎごろ、長岡のちょっと手前のサービスエリアに止まった。運転手はバスを停車させるとおもむろに「発車時間は3時30分になりま〜す」とのたまった。

深夜の人の気配の無いサービスエリアで、僕は1時間半、なにをすればよいのだろう。実に戸惑った。深夜のサービスエリア周遊散歩を敢行してみた。真っ暗でなにも見えない。お土産屋を物色しようと思った。すぐに飽きた。

雨も降っていたので、仕方なく屋根つきの喫煙所に座った。すると、同じくやることの無い迷える子羊たちがぞくぞくとタバコを吸いに来た。最初は集団みな無言のまま、もくもくとタバコを吸う。しかし、あまりの退屈に耐え切れず、ついに誰かが

「休憩、長いですねえ」と切り出した。

するといままで黙っていたのが嘘のように、皆話し始めた。僕も、隣の大学生(男)と話をすることになった。

その彼は埼玉在住で、新潟の彼女に会いに行くのだといっていた。その彼女は女子高生らしい、どうやら。しかし初対面の手前、あまり深い話はできない。基本的に当たり障りの無い会話で時間をやりすごすことが重要視される局面だ。

その彼は薬の勉強をしていて、動物の解剖の話を実に楽しそうに話してくれた。医学関係を志望する人は誰しもが通り抜ける道なんだろうなと思い、僕は興味深く聞いた。

会話をしたおかげで、あっという間に出発時間が来た。バスに乗って、それからやっと眠れた。しかし眠ったと思ったらすぐに新潟駅に着いてしまった。時間は4時半くらい。空はまだ微妙な明るさだ。バス酔いは、思ったほどは酔わなかった。大人になって酔わない体質になってきているのだろうか。

どさどさと荷物を放り出され、僕はサービスエリアで話した男子学生にお別れを言って、とにかく歩き出した。こういうとき、僕はついつい「またね」と言ってしまう。また会うことなど、おそらく無いであろうに。

新潟駅構内には、同じ夜行バスの乗客以外には、誰一人として人間が歩いていなかった。コツコツ…という足音だけがむなしく響いた。

 

書いている人 大里 圭介(ごろり)
Oosato Keisuke

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