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2005年10月04日

第8回 地面は揺れて、空は遠い。

8月20日、夕方。

RSR会場では、雨は降ったり止んだりという感じだった。この日の朝、小樽でどうしたんだと問いたくなるほど土砂降りだったのを思い出すと、まるでこのイベントのために弱まってくれたのかと思うほどやさしい天気だった。

しかし地面にレジャーシートを敷いて座る身にとっては、ぽつぽつとした雨すらもなかなかこたえる。なにせ寒い。ひとりで、黙って座っていると、ますます寒い。

ロックフェスには、ひとりで来ないほうが良いらしい。これは時間が経てば経つほど痛感した。ひとりのほうが音楽に集中できそうだが、たぶん二人、三人といたほうが集中できる気がする。とりあえず、これは僕のくせもあるのだろうが、まわりが気になってしょうがない。

僕の後ろの男女混合グループは、各々違うテントの音楽を聞きに行き、定期的に集合しては各自が聞いた音楽の解説と報告会を行なう。それらの報告は、まるで国語の時間に音楽雑誌を朗読させられているような、月並みで退屈な会話だった。グループ内では謎な「エセ評論家ヒエラルキー」が形成されていて、トップの男の饒舌な解説に「○○さんの切り口は、ホントいつも新鮮ッス」と、賞賛する下部層の男女が居た。トップの男は明らかにくるりの岸田さんを意識したルックスだった。

隣の男は僕が見る限り、ずっと寝ている。しかも新聞紙を巻いて。確かに北海道の原野で寝るのは気持ちがよいだろうが、気になった。

前のカップルも気になる。男はRSRに行きたくて、女はむりやり連れてこられたという構図が、ありありと伝わってきた。女はふてくされて寝ている。男は女も気になるけれど、音楽も聞きたい。立ち上がりたいけど、寝ている女のそばにもいたい。そこで、中腰の姿勢で静止していた。まさにどっちつかずだ。男は出演しているアーティストのよさを熱弁するが、女はまったく興味が無さそうだ。

しかし我慢の限界が来たか、HIGH-LOWSのときに男はついに立ち上がって、飛び跳ねた。しかし女が目に見えてフキゲンな態度を取る。すると男は立ち上がってジャンプしてしゃがんで女にキスして立ち上がってジャンプして…をロボットのように繰り返し始めた。男の心労を思うと応援したくなった。

これは自分のまわりではないが、ブラックホールのそばのカラオケ大会も気になった。目の前でプロのアーティストが全力で歌っているそばで、カラオケで熱唱するという不条理な企画は、想像以上にもりあがっていた。

 

音楽の話もしよう。転々と場所を移動しながら、つまみ食いをするようにさまざまなアーティストの音楽を聞いた。記事の冒頭で書いたように、僕は生で音楽を聞く機会はほとんど無いが、しかし演奏のよしあしというのは、割と明らかな差をもって伝わってくるものなんだなと感じた。

いくつか特筆したいアーティストが居たが、その中でも「こりゃ、すごいや」と思ったのが、ロック界の重鎮・忌野清志郎だった。何と言っても、でかく見える。でかく聞こえる。それに尽きた。音が大きいのと、音が大きく聞こえるのは、まったく違うことなのだなと思った。

 

夜、アジアンカンフージェネレーションが想像以上に良くなかったのにがっくりした僕は、これを機会にしばし睡眠をとることに決めた。しかし、北海道の夜は寒い。凍えそうだ。他の人たちがTシャツでゲラゲラ笑っているのが信じられない。そして、出発時にかばんに入らなかった寝袋…これが無いことに、何度後悔したか分からない。服を重ね着して、ローソンで買ったポンチョに包まって横になるが、風が冷たい。さらに毛布を買い足して、くるまる。ようやく耐えられる暖かさになった。

当たり前のことだが、うるさくて眠れない。爆音で地面が揺れているのだ。まさか本当に地面が揺れるとは思わなかった。それでも睡眠不足からか、うとうとしながら音楽を聞いた。

空がきれいだった。北海道の空は、なんと表現していいのか分からないが、東京の空とはまったく違うことは明らかだった。目が悪いので星はよく見えなかったが、なにか空との距離感が心地よいのだ。なにかを見ているような、見ていないような、吸い込まれるような、包まれるような、不思議な感じだった。そうした感覚と、そのとき流れていたくるりの音楽が、とてもうまく調和した。気持ちが良かった。

 

大トリの斉藤和義を聞き終えると、多くの人が一斉に片づけを始めた。僕は激しく眠たかったし、このまま昼まで横になっていてもいいと思っていたが、あまりにも周りがばたばたと片づけを始めるのと、後ろの男女混合グループが「俺たちの『良かったアーティストベスト3』を発表していこうぜぃ」と始めたのがうっとうしかったのもあって、眠るのは止して帰り支度を始めることにした。

といっても、すでに出口は、朝の池尻大橋あたりを通過する田園都市線のごとく大混雑になっていて、寝不足の僕はをれを見るだけで気持ちが悪くなってしまう。ふとまわりを見ると、売店は軒並み激安セールを始めていたので、僕はそれに便乗して朝食をここで済ませることを決める。実はRSR会場に着いてから、ほとんどなにも食べていなかったのだ。

朝食を食べながら、たまたま相席になった男の人としばし歓談をする。でも何を話したのか、まったく覚えていない。きっと向こうも覚えていないだろう。

食べ終わっても、帰る人たちの長蛇の列は途切れることが無い。いつまで待っても同じだと思ったので、並んでみることにする。これがひたすら長い。会場から出るまでに1時間近くかかってしまう。

しかし、この会場になった場所だが、まわりを見回しても何にも無い。ここはRSRが終わった後、どういった用途で使われる土地なのだろう。ただ道路だけが意味無く片側2車線で、気が遠くなるほど向こうのほうまで直線に延びている。外から会場を見て、「ここには数日間、『文明』がやってきたんだな」と感じた。RSRが終わってから、ここが絶望的に殺風景になる図が脳裏に浮かんだ。

 

超満員のバスに揺られながら、地下鉄麻生駅に到着。しかしここから電車に乗るまでも大混雑だ。ふだんはあんまり人も使わないような駅なのだろう。狭いのに、人ばかりたくさん居る。女子高生が学校に行こうと改札を抜けようとするが、あまりの大混雑で進めずに困っている。奥田民生が「フェスティバル」という曲で歌っているように、ロックフェスは街にとっては迷惑以外の何者でもなく、ただ大勢の人が通った砂埃だけが巻き上がるのだろう。

こうして、僕は麻生駅から札幌駅に向かった。札幌に着いたのは7時過ぎくらいか。眠気はピークを超えている。僕はこれから小樽のホテルにチェックインする14時までどうするのか、まったく白紙である。むしろこれからが旅の本番とも言えるだろう。

書いている人 大里 圭介(ごろり)
Oosato Keisuke

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